2005.03.08

『九月が永遠に続けば』 沼田まほかる

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著者:沼田まほかる
出版:新潮社
ISBN:4104734012
発行:2005年 01月
価格:1,600円 (税込:1,680円)
採点:3.5点

[帯]
 第5回ホラーサスペンス大賞 大賞受賞作
 綾辻行人・桐野夏生・唯川恵、三選考委員絶賛。(選評は裏に)
 驚天動地の実力派新人、堂々デビュー!!

[あらすじ]
 「私」は離婚後十八歳の息子・文彦と二人で暮らしている。だが、彼はある日ゴミを出しに行ったまま突然姿を消してしまう。行方を追う「私」は、夫の再婚相手の連れ子・冬子という少女と文彦が会っていたことを突き止めるが、共通の知人がホームから転落死したことから、二人が事件に関わっているのではないかと考え始める。

[感想]
 新人の作品とは思えない良質のスリラーである。
 全体を通して無理な力みながなく、文章も自然で読みやすい。展開はいくらか偶然が目につくものの、緊迫感を生み出す場面の挿入がタイミングよく、違和感なく楽しむことができる点は優れている。

 息子の失踪から転落事故、そして家族の問題へと読者の関心はスライドしていくのだが、一つ一つの謎が次第につながっていくという手法をとっているため、興味が削がれることなく読み進めることができる。また、すべての出来事が一つの輪に結びつくことで、謎が解き明かされると同時に、日常の中に秘められた個々の強い思いが浮かび上がってくる。

 事件の当事者としての「私」の視点で物語は進む。彼女が自分自身を振り返り、事件を客観的に見直していこうとするところがよい。主人公と読者との距離は章を追うごとに縮まり、いつの間にか不安感を共有していることに気づかされるのだ。派手さはないが、安心して読める作品といえるだろう。

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2005.02.26

『羊の秘』 霞流一

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著者:霞流一
出版:祥伝社(Non novel)
ISBN:4396207921
発行:2005年 02月
価格:876円 (税込:920円)
採点:3.5点

[帯]
 装飾された死体+雪上の殺人+ガラスの密室!
 「これが本格ミステリ“消去法の美学”だ」
 ミステリベスト2冠の
 法月綸太郎氏も驚倒!

[あらすじ]
 古道具屋の露沢が訪れた土蔵には、奇妙な死体があった。全身紙に覆われ、口には金属の棒。現場の三つの古時計は、それぞれ1時、2時、3時を示していた。そして再び起きる奇妙な事件。被害者はみな夢の表現サークルの関係者だった。

[感想]
 都市伝説の不思議を背景に展開する哀しい物語。トリック満載で、まさにミステリマニア向けの作品である。

 一作に一つの動物ネタを充てる作者が今回選んだのは羊。それがアイテムに関連するだけでなく、動機や推理の過程といったさまざまなレベルで作品に織り込まれている点は見事。しかし、何よりも嬉しいのはどこまでもトリックと謎解きにこだわる姿勢である。

 ミイラのように巻かれた被害者、ガラスの密室で火の玉となった死体など、奇怪な謎を提示し、蘊蓄を傾けながら驚くべき真相の種明かしをする。それは無理というとんでもないトリックも、ここまでやってくれれば大満足。得られた手がかりから容疑者を一人ずつ除外していくという、ミステリ好きにはたまらない大団円も用意されている。

 また、登場人物の会話の軽快さと事件の底流にある痛ましさ、この二つのギャップが不思議な味わいとなり、次第に作品の色合いが変わってくるところも興味深い。やるせない思いが残る結びもよい。

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2005.02.21

『オルファクトグラム』 井上夢人

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著者:井上夢人
出版:講談社文庫
ISBN:4062749858
発行: 2005年 02月
価格:819円 (税込:860円)(上巻)733円 (税込:770円)(下巻)

[帯]
 ’01年度「このミス」4位の名作がついに!(上巻)
 究極の嗅覚の世界 愛と感動の大長編(下巻)

[あらすじ]
 片桐稔は姉の家を訪れたとき、何者かに背後から襲われた。病院で意識を取りもどした彼は、そのとき姉が殺害されていたことを知らされ、同時に頭部の怪我が原因で自分が驚くべき嗅覚を身に付けたことに気づく。この嗅覚が犯人を追い詰めるために役立つのだろうか…。しかし、殺人者は次々と犯行を重ねていくのだった。

[感想]
 わたしたちは匂いの世界のことをほとんど何も知らない。だが、もしこのように見えたらどんなに素敵だろうと心から感じせさてくれるこの作品は実に美しい。

 主人公が自分の変化に気づき、匂いの構造を調べたり、CGで描いたりするところから、わたしたちは彼の喜びを感じ取ることができる。今まで見ることのできなかった世界を調べてみたい、そして他の人にも伝えたいという気持がストレートに読者の心に届いてくるのである。主人公はおそらく生まれたての赤ん坊が全身で刺激を受け止めているのと同じような興奮を感じているのだろう。これは事件を追う緊迫感やスリル・サスペンスとは違う。新しいものを知りたい、感じたいという、人間が生まれながらに持っている願いである。これが読みながら満たされていくのはどんなに嬉しいことか。

 実際には赤ん坊は刺激から学習をしていくときの興奮をわたしたちに伝えることはできない。だが、主人公が匂いの世界を知るのと同じような感動を理解するのに近い場面は体験することができる。それは、文字の存在を知り、読むことができたときの幼児の姿からである。
 文字を覚えたばかりの娘を連れてドライブに出かけた。娘は窓から見える「そば処」の文字を見て、「そ…ば…」と読み、たどたどしく何度か繰り返してからようやく「そば」のことだと気づいた。そして、大きな声で「おそば屋さん、あった!」とわたしに伝えてくれたのである。「うどん」の看板も「ごみ」の文字も、娘にとっては初めて文字として意識されたものである。次々に声に出し、読んで意味がわかることの喜び、文字というものが物事に対応し、言葉と同じものなのだと知る喜びを全身でわたしに伝えてきた。この喜びこそ新しい世界の存在に気づいた興奮と同じものではないだろうか。

 文字だけではないのだろう。本当は目の前に当たり前に見えているものすべてに、深い意味と価値があるはずである。だが、わたしたちは成長するうちにそうしたことを忘れていってしまう。驚きに満ちた世界は、次第につまらぬものに見えてきてしまう。大人になることで失ったものは計り知れない。

 作品の結末がよい。読み終えたとき、わたしたちは誰もが主人公と同じ気持ちを体験してきたのだと改めて感じることができる。そしてもう一度、世界が新鮮に見えていたときのことを思い出すことができる。匂いの世界を知るのは主人公ただひとりだが、彼は決して孤独ではない。自分と同じように、新しい世界を知る喜びを分かち合うことができるのだから。この喜びに満ちた作品を読める幸せを、一人でも多くの人と共有したい。

 2001年度このミステリーがすごい4位。(旧みすべすより 文庫化により再掲)

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2005.02.20

『水無川』 小杉健治

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著者:小杉健治
出版:集英社文庫
ISBN:4087477908
発行:2005年2月
価格:600円 (税込:630円)
採点:3.5点

[帯]
 なぜ我が子を虐待してしまうのか?
 家族とは?親子の絆とは?
 渾身の社会派ミステリー。泣けます!書き下ろし

[あらすじ]
 真壁義彦の担任した児童は親の虐待で死亡した。教職を辞し、悔恨の念を抱いて生きる日々。その中で真壁は子育てに自信をなくし、子どもを施設に預けている夏美と出会う。急速に親しくなる二人だったが、夏美は隣に住む野口という陰のある男に惹かれていく。

[感想]
 児童虐待と家族愛という表裏一体のテーマを扱ったメッセージ性の強い作品である。
 主人公の真壁は、自分の一生を変えた事件に対して向き合おうとする中で、夏美という女性と出会う。彼女はなぜ自分の子を虐待してしまうのか。施設に預けられた幼い娘・亜依と関わりを見つめながら、真壁は親自身の苦しみについて知るようになる。

 ここまで読むと、物語は虐待事件へと展開するように思われる。だが、隣人の野口の登場によって謎が提示され、新たな方向へと進むのである。幼い少女はなぜ彼に懐くのか。彼にある陰の原因は何か。真壁は夏美を奪われるという心配から、野口について調べ始めるのだが、次第に真壁自身もその過去に興味を持ち始める。そして野口の輪郭が明らかになってくることで、主題は家族の絆へとシフトし、二つのテーマが合わさる結末へと向かっていくのだ。

 ラストシーンは考えさせられる。解説にある通り、考えられる結末は二つ。読者はどちらを期待しながら読むのだろう。おそらくどこまで救いがあるか、それを考え秤にかけるのだろう。しかし、どちらを選んでもすべてが救われるとは思えない。痛みと苦しみは消えるはずもない。家族関係が希薄になり、痛ましい事件が現実に起こる中、あえてこの物語にこうした結末を選んだのはなぜか。作者はそれほどまでに家族の絆は強くあるべきだと伝えたかったのではないか。

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2005.02.17

『鏡姉妹の飛ぶ教室』 佐藤友哉

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著者:佐藤友哉
出版:講談社ノベルス
ISBN:4061824147
発行:2005年 02月
価格:970円 (税込:1019円)
採点:3.0点

[帯]
 これぞ、佐藤友哉。
 戦慄の〈鏡家サーガ〉最新作!
 あの『クリスマス・テロル』から三年。おかえりなさい、佐藤友哉!

[あらすじ]
 大地震で液状化した地盤は、青葉中学校を地底深く引きずり込んだ。生死を分ける一瞬を何とか生き残った鏡家の三女・佐奈は、妹を捜し地上へと脱出しようとする。だが、校内には「闘牛(トロ)」と呼ばれる怪物が徘徊し、それを狙うハンターとの間で壮絶な戦いが繰り広げられていた。

[感想]
 あふれ出す言葉と超人同士の激しい戦い。物語は書き出しからサバイバル・ストーリーである。

 『不思議の国のアリス』をモチーフにしたこの作品の中で、主人公・鏡佐奈の日常は非日常へと変貌を遂げる。考えられないような展開(ほとんどが災難)が次々と彼女に降りかかる。鏡家の兄妹といえば、これまでの作品でそれぞれ強烈な個性を持っていたが、佐奈は取り立てて特徴のない普通の中学生。その彼女が危機的状況の中で、どのように行動し、どのように変わっていくのかがテーマの一つ。

 最強を自負してマシンガン・トークを炸裂させる少年、「本気の本気」があれば人は何でもできると信じる少女、選ばれた者だけが勝者だと豪語する超一流のハンター。突然の非日常に影の薄かった少年はパニックを起こし、痛覚のない究極の身体を持つ怪物は痛みを知るために猟奇的な殺戮を続ける。目的のためにはどんな障害も排除する自己中心的な登場人物たちが、戦いの中で何を感じ、何を得ていくのか。個性的、というよりもそれぞれどこか壊れてしまっているのだが、そんな彼らが一つの目標を得て変容していく終盤の展開が興味深い。

 繰り返される言葉「本気の本気」は登場人物に向けられるだけでなく、作者自身に向けられたもののように思える。この熱さが、佐藤友哉ファンだけでなく新しい読者にも伝わることを期待したい。次作でもきっと、本気を見せて楽しませてくれるに違いないから。

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2005.02.15

『松浦純菜の静かな世界』 浦賀和宏

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著者:浦賀和宏
出版:講談社ノベルス
ISBN:4061824139
発行:2005年 02月
価格:880円 (税込:924円)
採点:3.0点

[帯]
「私には分かるよ。あなたの気持ちが。
 殺したい奴って、確かにいるもの」
 いま日本で最も戦闘的な作家の最新作。  


[あらすじ]
 暴漢に襲われ、重傷を負った純菜は、強盗の放った銃弾をかわした奇跡の男・八木剛士と出会う。二人は協力して行方不明となっている純菜の友人を探すこととなるが、町では女子高生を狙った殺人事件が連続して起きており、二人の身にも危険が迫るのだった。

[感想]
 心に癒せぬ傷を持つ男女が、事件を通して生きる力と自信を取り戻していく。
 浦賀和宏は前作『透明人間』でも、同様のテーマを扱っている。孤独な女性が閉鎖状況の研究所内で殺人事件に巻き込まれるというもので、いくつもの危機を脱した主人公が自分の生きる意味を見いだしていく姿が心を打つ作品であった。特に、タイトル通りの「透明人間」というSF的な要素とミステリの王道である密室トリックを融合させ、幻想的な結末に運ぶ展開は読み応えがあった。

 生きる力、自信へと物語を運ぶ牽引力を見るならば、『松浦純菜の静かな世界』よりも『透明人間』の方が勝っているだろう。純菜が必死になる理由がなかなか明らかにならないこと、剛士の妹に対する心情にもう一歩踏み込みがほしいことなど、惜しい部分はある。しかし、今回の作品は猟奇殺人鬼に都市伝説を絡めたもので、主人公の造型を含めて物語にさまざまな謎を織り込んでいるところはおもしろい。警察側の捜査は全く触れられていないが、純菜という少女を配置することで、否応なしに事件に巻き込まれていく状況を設定している。また、プロット自体は珍しいものではないが、一見不可解な事柄の一つ一つに筋道の通った決着がつけられているところもよい。犯人側の描写を加えるなど、テンポよく読ませる工夫もされており、気軽に楽しめる作品となっている。

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2005.02.13

『ユージニア』 恩田陸

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著者:恩田陸
出版:角川書店
ISBN:404873573X
発行:2005年 02月
価格:1,700円 (税込:1,785円)
採点:4.0点

[帯]
 誰が世界を手にしたの?
 遠い夏、白い百日紅の記憶。死の使いは、静かに街を滅ぼした。
 知らなければならない。あの詩の意味を。あの夏のすべてを。

[あらすじ]
 ある夏の一日、懐かしい街を歩きながら彼女は語る。子どもの頃にここで起きた事件を。大学生の頃、卒論代わりに調べたあの事件を。
 大人と子ども、17人が犠牲となった。米寿の祝いの席で振る舞われた飲み物に毒が入っていたのだ。盲目の少女は生き残り、容疑者は死亡した。だが本当は何があったのか。なぜそれほどの事件が起きなければならなかったのか――。真実の扉が少しだけ開こうとしている。

[感想]
霧がかかったようにぼやけた表紙、大きさのまちまちな頁、わずかに斜めになった印刷。不思議な装丁のこの本は、インタビュー、回想、独白で構成されている。
 事件当時、十年後の取材時、さらに時を経た現在と三つの時間が作品に流れる。また、視点も各章ごとに変わり、事件関係者だけでなく当時の警察官や、取材に同行した青年など複数の目でその日の出来事が語られてゆく。

 事件は関わった人々の人生に少なからぬ影響を与える。一つ一つは小さなエピソードだが、それらが合わさることで、波紋がどのように広がっていったのかを、読者はその目で確認する。なるほどそれぞれがこうした気持ちで向き合ってきたのかと、その重さに心を打たれるのだ。時が流れて記憶は薄れても、人の心の中で事件が風化することはない。それぞれの生き方に応じたフィルターを通して回想されるのである。読み解く楽しさを味わうと同時に、その奥行きの描き方に感心させられる。

 ところが、盲目の少女・緋紗子の心の中だけは、どこまで読んでも掴むことができない。これほど背景が精細に描かれていながら、中心となる絵は輪郭すら判然としないまま据え置かれているのである。それだけに、なおのこと真実を知りたくなるのだ。いったい何が起きたのかと。彼女の心の中が見えたと思える時もある。だが、次の瞬間にはすべてが覆い隠され、読者は放り出されたような気分を味わうことになる。そして、決して分かることはできないのだと思い知らされるのだ。心のやりどころのない作品だが、誰かと語り合いたい気持ちにさせられる。

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2005.02.09

『ほうかご探偵隊』 倉知淳

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著者:倉知淳
出版:講談社(ミステリーランド)
ISBN:4062705745
発行年月: 2004年 11月
本体価格:2,000円 (税込:2,100円)
採点:5.0点

[帯(シール)]
 かつて子どもだったあなたと少年少女のための――
 ミステリーランド第六回配本
 小学五年生経験者必読!

[あらすじ]
 クラスを揺るがす連続消失事件。その四番目の被害者に、僕はなってしまった。なくなったのはリコーダー。それも真ん中の棒状のところだけ。飼育小屋のニワトリや、壁に貼ってあった絵など、いったい誰が、何のためにとったのか。僕は、江戸川乱歩好きの龍之介君たちと一緒に、ほうかご探偵隊を結成した。

[感想]
 不可解な事件、ミッシングリンク、密閉された室内からの消失、暗号、どんでん返し、犯人との対決、少年探偵団、他の作品とつながるちょっとした仕掛け。児童向けの小説であるにもかかわらず、ミステリの素材をふんだんに盛り込んだ、贅沢な作品である。

 登場人物は小学生と学校に関わる人のみ。事件も絵やリコーダー、ニワトリがいなくなるというどこかのんびりとしたもので、作品全体の雰囲気も温かく、懐かしい印象を受ける。何か所か衝撃的な場面も準備されているが、その後の展開には読み手となる子どもたちを意識した気配りが見られ、安心して与えることのできる作品となっている。これは同時に、ミステリ好きな大人が読んでもうならされるところで、鮮やかな逆転劇が気持ちよい。

 ミステリーランドのシリーズは、これまでに13作品が刊行されているが、これほどソフトで、しかもトリックとロジックにこだわった作品はない。子どもたちにミステリの楽しさを伝えるという点で、最も成功している作品である。

 しかし、これを読んで子どもたちに探偵隊などを作られてしまっては、小学校の担任の先生は困るのではないだろうか。あんなことがあったり、こんなこともあったり、きっと困るに違いない。クラスでこんなことをはやらせてしまうわけにはいかない……のだが、読ませたい。何としても読ませたい。毎日教室で読み聞かせをしたい。小学校教師、五年担任の素直な気持ちである。

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2005.02.08

『月読』 太田忠司

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著者:太田忠司
出版:文藝春秋(本格ミステリ・マスターズ
ISBN:4163236902
発行:2005年 01月
価格:1,857円 (税込:1,950円)
採点:3.5点

[帯]
 月読、それは死者の最期の言葉を聴きとる異能の主。故郷を捨て、月読として生きることを選んだ青年、朔夜一心と、連続婦女暴行魔に従妹を殺され、単身復讐を誓う刑事、河井。
 ふたりが出会ったとき、運命の歯車は音を立ててまわりはじめる。

 ぼくはここにいる。きみはひとりじゃない。

[あらすじ]
 マンションのドアに浮き出たレリーフ。それは従妹が残した月導だった。数ヶ月にわたって連続して起きている暴行事件との関連はあるのか、手がかりを求めて部屋を訪れた河井は、ドアの前に佇む一人の青年と出会う。青年は朔夜と名乗り、月導から読み取った言葉を河井に語り始めるのだった。

[感想]
 人は亡くなるときに月導(つきしるべ)を残すという。それは死者の最期の思いが形をとるもので、手で触れられるものだけでなく、光や音、香りとなってその場に残ることもある。そして、月導から言葉を読み取る者を「月読」と呼ぶ。

 こんな不思議なことが当たり前のように存在する世界が舞台となった作品である。一見ファンタジーのように感じられるが、その部分をのぞいてしまえば、わたしたちの世界と何ら変わることのない日常がそこにある。

 死者の言葉といえばダイイングメッセージ。だが、ここではそうした露骨な使い方はされていない。故人の悔やむ気持ち、伝えたい思いが凝縮され、形となって表れる情緒的なものとして登場しているのだ。そのため作品全体が月の光にそっと照らされたように、寂然とした落ち着きあるものとなっている。また、月導や月読はこうした雰囲気作りの道具として使われているだけではない。トリックやプロット、「月読」という職業に就く主人公の人物設定といった物語を構成する複数のレベルで、重要な役割を果たしているのである。それぞれどのような場面で機能しているのか、施された仕掛けを探しながら読むのも楽しい。

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2005.02.07

『季刊島田荘司Vol.4 最後の一球』 島田荘司

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著者:島田荘司
出版:原書房
ISBN:4562037954
発行:2005年 02月
価格:1,600円 (税込:1,680円)
採点:3.5点

[帯]
 お待たせしました!御手洗潔シリーズ書き下ろし最新長編
 「最後の一球」(480枚)一挙収録!
 生まれ故郷から近代日本を照射する「BACK TO FUKUYAMA」
 少年時代から作家への軌跡をたどる「誌上再現・島田荘司展」
 日本人の本質に鋭く切り込む   「日本学の勧め」など
 圧倒的高濃度大増ページ!

[あらすじ]
 美容院を営む青年は、母親の自殺未遂の理由を知りたいと御手洗を訪ねてきた。わずかな手がかりから、御手洗はその謎を解き明かす。すべてが解決したかに見えたそのとき、とあるビルの屋上で、火の気もないのに突然火災が起きるという事件が発生する。二つの事件をつなぐのは野球に人生をかけた一人の青年の物語だった。

[感想]
 幻想的な謎を論理的に解き明かすおもしろさ、社会の矛盾に対する憤り、心を包み込む温かなまなざしなど、御手洗潔シリーズには様々な魅力がある。この作品は、どちらかといえば後の二つに力点が置かれた、メッセージ性のある作品である。

 物語は青年美容師の相談から始まる。依頼された母親の自殺未遂の謎はすぐに解き明かされ、続いて密室状態での火災というもう一つの事件が発声する。謎としては、どちらにもさほど魅力は感じられないのだが、野球に人生をかけた青年の物語が始まることで、作品は急速に輝き始める。

 青年の独白がたどり着く先は、ほぼ見えている。事件そのものに不思議はない。だが、なぜそうしたことが起きたのか、何が彼にあったのか、それが何としても知りたくなる。そして、青年の積み重ねた努力と苦労の日々を読み進めるうちに、読者は作品の世界に深く引き込まれていく。序盤の謎と、そこに込められていたメッセージが青年の物語とつながり、鮮やかなエンディングが読者の心を揺さぶる。小道具の生かし方、構成の巧みさが光る作品である。

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